目次: 寄稿編  No.117 日野公嗣君 安らかに眠れ 主将 金治 伸隆

 主将として、部員の死という最悪の事態を迎えたことは、非常に残念です。正直申しまして、日野が危惧状態にあったころ、最悪の事態に到って後も、ラグビー ボールを握るということが、私にはどうしても考えられませんでした。それは副将の峯本についても同じであり、四回生が集まって話し合った時にも、同様の気持の 者が数名おりました。しかし、今ラグビーをやめても、一時の感情の問題として収まりがつくだけで、我々自身の挫折は、一生取り返しのできないものだ、という他 の四回生の言葉に、私も全くその通りであると思い、自分に言い聞かせてきた訳です。
 日野の死によって、我々が永久に取り戻すことのできない大切な物を失い、部員にとって、我々が考えていた一つのラグビーが終わったことは、確かであると思い ます。私は、練習を再開するにあたり、一から出直すつもりでしたし、部員にもその事を確認したところ、彼らも、事実を比較的冷静に受け止め、各自のラグビーに 対する情熱を再確認してグランドに出て来てくれ、私はそれによって非常に励まされました。
 リーグ戦が始まってからは、試合直前に黙祷を行ない、試合中は半旗となった部旗を見て、気合を入れています。練習の方も、部員一同元気にやっており、日野の 抜けた三回生も徐々に上級生としてのリーダーシップを取るようになり、頼もしく思っています。
 思い直すと、病名が示す通り、日野くらい何事にも頑張る男もいませんでした。京大ラグビー部の守り神として、彼はこれから入って来る後輩達にも、根性を植え 付けてくれると私は信じます。今は「日野よ安らかに眠れ。」と言えるだけです。

(昭和五十七年十一月記す)

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